2011年05月14日

訓練日誌 28日目


皆さん、こんにちは。
本日は、3年前の5月9日、金曜日の日記をお届けします。
昨日の“銀座歩行”、アイメイトの卒業試験を二クラス全員が無事に合格し、ホッと胸を撫で下ろし、さあ卒業式と思いきや、最後の最後にもう一つの難関、“幻の卒業試験”と証する、これまたアイメイト協会恒例の謎めいたテストが控えていました。
このコース、先にも記した通り、アイメイトも歩いたことのない、もちろん、使用者も初めての道のり、前夜のミーティングである程度詳しい説明はあったものの、二日連続で未知の世界に足を踏み入れるという、今までの訓練とは大違い、社会復帰に向けてのかなり実践的な取り組みと言えるでしょう。
“幻”と名付けられたこのテスト、今までの五つのテストのように、コースの概略をご紹介することはあえて控えさせていただきます。
ただ、今まで経験していなかった歩道橋を利用する道路の横断があり、その位置が少しわかりづらいということだけを付記しておきます。
これからアイメイトと一緒に歩きたい!とお考えの視覚障害者の方は、協会には内緒でこっそり教えますので手紙をください。
では、アイメイト協会で過ごす残り少ない生活の続きをどうぞ。
【5月9日(金) くもり
今日と明日の二日間を残して、ここでの生活を終えようとしている。
トリトンの体調もいいようだ。今朝は、大量のツーもしてくれた。
俺もまずまずといったところか、この四週間、大きく体調を崩すこともなく元気に過ごすことができた。
本日は午前中に最後のテスト、“幻の卒業試験”があり、午後には理事長直々による面談があり、アイメイト使用者証が俺の手に渡されることになる。
夜は明日の荷造りや掃除などで忙しくなるだろう。
明日の昼前には協会を出発し、自らの家にそれぞれがアイメイトを伴って戻っていく。
そして、明日からは自分の後ろを指導員は歩いてくれない。適切な指示も与えてはくれないのだ。
すべて自己責任の元、犬をコントロールし、日常の健康管理にも気を配っていかねばならない。
四週間だけの訓練で本当に大丈夫なのだろうか?
これで帰ってしまって本当にいいのだろうか?などの不安も多い。
しかし思い返せば、ここで様々なことを学んだ。
これだけ短期間で何かを身につけるために学習したのは、もしかしたら、自分の人生で最初の経験ではなかろうか、と共に、本当に貴重な時間を過ごせたという満足感が体の中からあふれ出る。
仕事を休んでまで来たことに全くと言っていいほど後悔はない。
「やった!!」
トリトンが完璧な仕事をしてくれた。
もちろん、最終試験の幻のコースのことを言っている。
間違えた場所も皆無で、歩道橋の階段も一発で教えてくれた。
スピードも快適なもので、俺をどこにもぶつけずにゴールしてくれたのである。
これぞまさしく、有終の美を飾るにふさわしい歩行と言っても過言ではないだろう。
午前8時半、協会の車でテストが行なわれるスタート地点へと向かった。
5人中最後のスタートとなる俺は順番を待つ同期生と共に車内で待機していた。
晴天に恵まれた昨日とは異なり、どんよりとした曇り空、気温も低い。
一人一人無事にゴールし、いよいよ俺の名前が呼ばれ、車外に降り立った。
担当指導員のSさんと一緒に歩く。
『一体どれだけの距離を彼女と歩いてきたのだろう』
そんな回想にふけっている間もなくスタート地点に到着。
「行ってらっしゃ〜い!」
Sさんの明るい声に見送られ俺とトリトンはアイメイト協会で受ける最後のテストに臨んだ。
その“幻の卒業試験”を無事に終えて協会に戻ってきた。
午前中の予定はこれですべて終了だ。
今は昼食を首を最大限に長くして待っているところだ。
Mさんの手料理も残すところ2回、じっくりと味わいたい。
昼食後、トリトンのワンツーに出し、現在は居室で理事長からの卒業合否の判定を待っているところだ。
362期のわれわれの中でHさんが最初に呼ばれた。
そして俺の番がきて名前を呼ばれた。
トリトンにハーネスを装着し、居室を出て3階の会議室に向かった。
3階に到着、左に進むよう指示を出し、続いて左のドアを命じる。
「ドア、グッド」
軽くドアをノックした。
「はい、どうぞお入りください」
ドアを開けて中に入り、少しだけ右へ歩を進ませる。
正面に机があり、向こう側の中央に理事長、左にK指導部長、右に担当指導員のSさんが座っている。
机を挟んで理事長の向かい側に椅子が置かれている。
「チェアー」
でトリトンに空席を探すよう指示を出す。
すかさず、その椅子に顎を乗せて俺に教えるトリトン、
「チェアー、グッド」
その椅子に腰をおろし、トリトンを伏せさせ、理事長が発する言葉に耳を傾ける。
「アイメイト協会での全ての課程を修了しました」
俺とトリトンの卒業が決定した瞬間である。
評価の中に、少し犬に甘いというものがあり、叱ることと賞めることの減り張りをつけることが重要との指摘を受けたが、その他に今のところ問題はないということだ。
また、トリトンの飼育奉仕者をしてくださった家族、お母さんとお子さん達が昨日行なわれた銀座の卒業試験にいらしていたことを教えてくれた。
成犬になるまで愛情を注ぎ続け育ててくれたご家族の方々にはなんとお礼を申し上げてよいのか、言葉でうまく言い表すことができない。
ただただ、ずっとトリトンと一緒に歩いていくこと、ご家族に負けないくらいの愛情を傾け彼に接していくことが、それに報いる唯一の手段ではなかろうか。
トリトンの性格を見ていれば、どれだけ可愛がってくれていたのかが手に取るようにわかる。
できれば、近い将来、お互いに連絡を取り合い、末永くトリトンを皆で見守っていきたいものだ。
最後に、アイメイト使用者証を手渡され、理事長、K指導部長、Sさんの順で握手を交わし、
「おめでとうございます!」の言葉をいただいた。
会議室をあとに居室に向かうトリトンの足どりは、なぜか自信に満ちた力強さを感じさせてくれるが気のせいだろうか?
頼んでいたトリトンのレインコートが出来上がり、ボランティアの女性が居室を訪ね、直接手渡してくれた。
早速、トリトンにそれを着させ出来上がりの状態をチェック。さすがはオーダーメイド、体にぴったりフィットしている。
ダスターコートについては、これから作業に入るということ、出来上がり次第自宅に送ってくれるらしい。
さて、コーヒーでも煎れて、ゆっくり嬉しさを噛みしめることにしよう。
と、その時、全員食堂に集合との合図がかかった。
ドッグフード、シャンプー、ベッドチェーンなどの注文、同窓会への入会手続き、狂犬病、7種混合ワクチン摂取済みの書類やクラスの集合写真、歩行中の写真などの配布など、卒業に向けて慌ただしい時間が流れた。
3日分のドッグフードも頂戴し、フード用の計量カップもいただいた。
そして、現在、居室にはトリトンの姿はない。
彼の歯石の除去、爪切りなどを担当指導員のSさんが行なってくれている。
また、ハーネスに卒業ナンバーも刻印されるということだ。
ちなみに、トリトンの卒業ナンバーは、1046号である。
しばらく待っていると、Sさんに連れられてトリトンが帰ってきた。
さて、トリトンの食事も終わり、ワンツーにも出した。
協会では最後となる風呂にも入った。
しばらくすると、協会での最後の晩餐である。
現在少しずつ荷造りをしている。
ここに来た時に突いていた白杖も必要なしと判断し段ボールにしまい込んだ。
現在時刻、午後7時30分、最後の夕食を終えて居室に戻っている。
訓練生のみで8時に食堂に集まる約束をしている。
クラス全員の連絡先を交換するためだ。
現在は居室に戻り、協会で煎れる最後のコーヒーを飲みながらこれを書いている。
食堂に集まったわれわれの話の中で、10月末に同期会を実施することも決定した。
隣のクラスのNさんが所有する蔵王の別荘でというところまで話は具体化した。
約半年後、同じ釜の飯を食った仲間が再度集まって顔を合わせる。なんて素敵なことだろう!
さあ、荷造りもほぼ完了した。
アイメイトを持つ決心をし、この協会での共同訓練に入り、同じ志を目指す4人の仲間とも出会えた。
協会職員の皆さんにもずいぶんお世話になった。
一つ一つを書き出せばきりがないほど、ためになること、面白い話し、様々な出来事があった。
明日の卒業式、もしかすると感無量で涙が出てしまうかもしれない。
それほど、この四週間は、俺にとって思い出深い大切な時間となったことは言うまでもない。
協会での日記は、今夜が最後になる。
何一つ忘れてはいけないと、何でもかんでも書き残した文章の数々、誤字や脱字も含めてかなりの量にのぼる。
いずれ、この日記を紐解くこともあるだろうが、その時、俺とトリトンは今と同様、二人で元気に歩いているに違いない。そう信じている。】
posted by ドスコイノブ at 09:00| Comment(2) | TrackBack(0) | トリトンとの日々