2011年05月13日

訓練日誌 27日目


皆さん、おはようございます。
さあ、やってまいりました、運命の卒業試験“銀座歩行”の当日です。
アイメイト協会に泊まり込んでの訓練の集大成と位置づけられている本日のテスト、今まで習ってきたことを駆使してアイメイトをコントロールし、二人で力を合わせて、東京の真ん中、銀座の人ごみを歩くという晴れの日を無事に迎えました。
最初にお断りしておきますが、今回の記事は滅茶長いです。
約5000字、原稿用紙に直せば12枚、2回に分けて掲載しようかどうか迷いましたが、一気に走ることに決めました。
さて、私とトリトン、どのような結末を迎えることになるのか、どうぞご覧ください。
【5月8日(木) 晴れのちくもり
午前1時45分頃、少し強い地震があった。
あわてて枕元に手を伸ばし、携帯ラジオのスウィッチを入れた。
この時の揺れは震度4と伝えられているが、トリトンは、何にもなかったように寝入っており、そんな彼の様子から大きな被害につながることはないだろうと勝手に解釈し再び睡魔の誘惑を素直に受け入れた。
午前6時に起床。
今朝は昨日に比べると涼しく、“銀座歩行”にも最適の陽気と言えよう。
先ほど、担当指導員のSさんが居室を訪ね、アイメイトである印のプレートをトリトンのチェーンカラーに装着してくれた。
このプレートには人とシェパードをシルエットに象ったロゴマークが記されており、モデルになったのは、塩屋賢一会長と国産盲導犬第一号のチャンピィとのこと、また、その下にはアイメイトの卒業ナンバーを刻むためのスペースが設けられているという。
裏側には、アイメイト協会の住所や電話番号などの連絡先が刻印されている。
いよいよ、トリトンが自分のアイメイトになりつつあるという実感を抱かせてくれる一瞬である。
卒業試験と位置づけられている“銀座歩行”、無難に歩いてゴールすることだけを念頭におき、満面の笑みで担当指導員のSさんからの祝福を受け止めたい。
朝食を摂るために食堂に行ったが、やはり、本日は、いつもと協会内の雰囲気もどことなく違うような気がするが気のせいだろうか。
9時過ぎに協会を出発するという。
地震で起こされたが睡眠は十分、体調も万全だ。
さあ、何を着ていこうか。銀座と言うことだし、いつものジャージ姿ではうまくないだろう。
かと言って、他にこれという洒落た服もない。
仕方ない、訓練に入る時に着てきたもので勘弁してもらおう。
靴は、いつも歩行練習で履いている者でいいだろう。
帽子もかぶった。髭も剃った。ついでに髪の毛も剃った。
おっと、ティッシュとハンカチを持たなくては。
よしっ!忘れ物もない。俺は完璧だ。
1階に下り、トリトンのワンツーを済ませた。
同期の訓練生、そして、もう一つのクラスの訓練生も皆集まっている。
各自パートナーの基礎訓練も終え、2台の車に便乗し協会をあとにして大都会、東京のど真ん中、銀座に向けて出発である。
それから約7時間後、4時前には協会に全員が無事戻ってきた。
何から話せばいいだろう。順を追って記すことにしよう。
まず、9時過ぎに協会の車で吉祥寺駅まで移動した。
俺が乗った車の助手席には理事長も同席し、計8人で賑やかな車内、しかし、緊張のせいか自分の口数は少ない。
吉祥寺駅からは一人ずつ指導員がついて中央線ホームに移動、有楽町を目指した。
俺についてきてくれたのは担当指導員のSさん、なんとも心強く温かい。
4番線に入線した電車に乗車、終点の東京駅を目指す。
車内は以外に込んでおり、、しばらく立っていたが、途中からは椅子に座ることができた。
左右の乗客の邪魔にならないよう、トリトンを自分の股の間に前を向くように伏せさせた。
やがて終点の東京駅に到着、ホームに降り立ち、山手線に乗り換えるためエスカレーターで1階まで下った。
そして、5番線の山手線で有楽町へ。
その有楽町駅では、本日の訓練を撮影するテレビ局のスタッフと合流、一人ずつ挨拶を受けた。
今回の撮影はドラマの最初と終わりの部分に訓練生が歩行練習をしている場面を挿入するというものらしい。
銀座口から晴海通りに出て銀座四丁目まで全員が移動した。
そして、ついに運命の卒業試験が始まった。
出発地点は銀座和光前、一人ずつ時間をずらして京橋方面へ向けて出発、俺は5人中4番目のスタートとなった。
コースに関しては、昨夜のミーティングで詳しく説明を受けていたので、普段通りに歩けば無事にゴール地点に帰り着くはずだった。
まずは1本目の銀座三丁目、次は2本目の銀座二丁目、続いて3本目の銀座一丁目の交差点を無事に渡り、そして4本目の銀座通り入口のストレートコーナーにつけた。
たくさんの歩行者で賑わう銀座の街をトリトンと二人で今確かに歩いている。
しかも、俺をどこにもぶつけず縫うように歩調も軽やかに。
自然にこぼれ出る「よーし、よし、グッド、グッド!」の声は都会の喧騒にも負けないほど、大勢で賑わう銀座の街に高らかに響いていた。
このコーナーを渡らずにバックしレフトコーナーにつけて銀座通りを横断する。
「ごー、レフトコーナー」
トリトンが俺の指示に従いバックして左のコーナーにつけて停止した。
その後、、おもむろに右足を前に滑らせる。
「あれっ、おかしいな」
俺の足先に感じるコーナーの段差が異常に高い。
横断歩道であれば滑らかにカーブしながら下がるはずなのにどうしてだろう?
もう一度先ほどのストレートコーナーに戻って同じ動作を繰り返した。
しかし、トリトンが俺に教えてくれるコーナーはさっきと同じように約20センチほどの高さの急激な段差である。
しつこく、再度同じ動作を繰り返したが、結果は同じ、しかも、信号待ちをしている歩行者の気配もまったく感じられない。
せっかくここまで順調にきたのになんということだ。俺は焦りだしていた。
だが、ここで俺が心を乱してしまえば、それはトリトンにまで伝わってしまうことになる。
しばらく立ち止まり頭の中を整理することに。
そして、俺は動いた。
もう一度ストレートコーナーに戻るようトリトンに指示を出した。
何人かの歩行者が信号待ちをしているのを確認した後、
「すいません!ちょっとお聞きします」
俺の問いかけに一人の男性が返事を返してくれた。
「ここは銀座通り入口の交差点でしょうか?」
「ここは違いますよ。1本後ろの交差点が銀座通り入口になります」
『そうか、俺達は1本コーナーを行きすぎていたんだ』
自らの過ちに気付き、すべてを理解した俺は、
「ありがとうございます!助かりました」
男性に礼を述べ、続いてトリトンにバックを命じた。
1本目のストレートコーナーを横断し、すかさずレフトコーナーを指示する。
信号待ちをしている人々の間をすり抜け、トリトンは滑らかな段差に俺を確実に導いてくれた。
「コーナー、グーッド!!」
信号の変わり目を捕らえ、「ストレート」の声符と共に俺達は銀座通りを横断した。
右に方向を変え、1本、2本、3本のコーナーを無事にやり過ごし、4本目のダウンコーナー、そう、みんなが待つゴール地点に向けてその距離を狭めていった。
トリトンが徐々にスピードを落としていく。ゴールはもうすぐ目の前に迫っている。
やがて彼は静かに停止した。俺は右足を前方に滑らせダウンコーナーであることを確認し、
「コーナー、グーッド!お疲れさん」
アイメイト協会の卒業試験、“銀座歩行”のゴール地点に無事に到着した瞬間である。
「おめでとうございます!」
担当指導員のSさんの明るく透き通る声と共に小さな手が差し出された。
「ありがとうございます!」
その小さな手を握り替えしながら礼を述べる。他に言葉は見つからない。
続いて理事長、インターンの女性達と次々に握手を交わし祝福を受け止めた。
最後にスタートした隣のクラスのEさんもゴール、無事に全員がこの“銀座歩行”をクリアしたことになる。
晴れ晴れとした気持ちに包まれた訓練生、協会スタッフの心の中は、きっとその日の天候を遥かに上回っていたに違いない。
それから一行はレストランとしてはわが国で最初に盲導犬を快く受け入れてくれたというカレーレストラン“ナイル”に向かった。
銀座での卒業試験の後の昼食は、必ずこの店でというアイメイト協会恒例の欠かすことのできない大切な一時である。
晴海通りを直進し、昭和通りを左折したところにその店はある。
われわれは2階に案内され、各自思い思いに席について一息。
その後、店の主人がわれわれの席までわざわざ出向き、訓練生一人一人に優しく労いの言葉をかけてくれた。
昼食後、人のワンツーを済ませ、次に、店が提供するアイメイトのワンツー場所に移動した。
そんなきめ細やかな心配りに感謝しつつ、
「ワンツー、ワンツー」
初めての場所だったが、トリトンはワンとツー、両方ともしてくれた。
「ワンツー、グッド!」
ワンツーは、いつも協会の運動場でしかしていなかっただけに、この柔軟な対応に少々驚きながら、頼もしくも感じていた。
“ナイル”のご主人と別れの挨拶を交わし、われわれ一行は地下鉄銀座線の東銀座駅を目指した。
帰りのルートは行きのそれとは異なり、銀座線で茅場町まで行き、東西線に乗り換え高田馬場で下車、西武新宿線に乗り換えて協会の最寄駅である東伏見まで行く。
東伏見から協会まではBコースで学んだお得意の道、人もアイメイトもホームグラウンドに帰ってきたかのように快調なペースで協会を目指した。
それからはトリトンの食事、人の入浴と言った具合に、普段通りのスケジュールをこなすことになる。
しかし、アイメイトを裏から援助してくれる人々のなんと多いことだろうか。
このような人々の深い理解があってこそ、自分がこの場所にいることができるのだとあらためて思い知らされた。
たくさんの人から、「がんばってくださいね」「おめでとうございます」などの言葉を頂戴し、もっと早くにアイメイト協会へ申し込んでおけばよかったと後悔すら覚える、そんな心に残る“銀座歩行”の一日だった。
ゴール地点で待ち受ける協会スタッフの祝福に、もしかしたら涙が出てしまうかもと思っていたが、本日冒した自分のミスが脳裏から離れず、それが俺の頬をつたうことはなかった。
しかし、妙な気分だ。
東伏見の駅にたどり着き、アイメイト協会に戻った時、やっと帰ってきたと感じた。不思議に、自分の家のような錯覚を抱いてしまうほど、ここは、温かな場所となっている。
さあ、夕食までの少しの時間をトリトンと過ごすことにしよう。
「おつかれさま!」の言葉と気持を乗せながら。
今夜のミーティングでは、本日の歩行について一人ずつ成果と反省点を順に述べた。
同じクラスの二人の女性は、さほどのアクシデントもなく無難にコースを回ってきたという。
先にも記したように俺はコースをはみ出してしまい通行人に道を尋ね、やっとのことゴールにたどり着いた。
しかし、俺の報告を聞いた担当指導員のSさんは次のように述べている。
「まったく問題ありません。上出来です。綺麗に歩くことだけがアイメイト歩行ではありません。
人に道を尋ねたりしながらアイメイトと共に目的地を目指すことが重要であり、初めての場所でも二人だけで歩けることがアイメイト歩行です」
確かにその通りである。見える人だって道を尋ねながら歩いている光景は日常茶飯、道を間違えることが失敗なのではなく、どのように修正するかが成功への近道なのだ。
続いて話された内容は、明日行なわれる、これまたアイメイト協会のもう一つの名物、“幻の卒業試験”のコースについての説明である。
今回の“銀座の卒業試験”、そして、明日の“幻の卒業試験”、いずれもアイメイト達も初めて歩く道。
この四週間に渡る厳しい歩行訓練が“幻”に終わらぬよう、最後のテストをトリトンと力を合わせて必ずやゴールしてみせる。
そして、明後日、皆が待つわが家にトリトンを連れて帰るのだ。】
posted by ドスコイノブ at 09:00| Comment(4) | TrackBack(0) | トリトンとの日々
この記事へのコメント
3年前のドスコイノブさんとトリトンに
「おめでとうございます」を言わせて頂きます。

1本コーナーを行きすぎてしまったにもかかわらず冷静に判断し引き返され、そして無事ゴールへの到着。素晴らしいですね。
私だったら永久に銀座をさまよいそうです。
協会の方もこのコンビはこの先も大丈夫だと
はっきり確認でき嬉しかった事でしょうね。

ブルックスさんはこの時遠くから見ていらしたのでしょうか?
沢山の方が色々な思いでドスコイノブさんとトリトンを見守っていた事になりますね。

ところで幻の卒業試験とは何でしょう?
次回も楽しみにしております。

Posted by おさお at 2011年05月13日 20:19
おさおさん、こんばんワン!トリトンです。
いつもパパにコメントを書いてくれて僕からもワンワン言わせてもらいます。
日本語は少し難しいので、間違えちゃうけど許してニャオ。じゃない、ワン。
銀座を歩いた日、僕はブルックスママを見かけたよ。目が合ったんだ。
本当はママに挨拶したかったんだけど、ここでそちらに向かってしまえば、パパも僕も試験に合格できないと思ったので我慢してたんだ。だから、パパに「おめでとうございます」もいいけど、僕にも骨とかクッキーとか、なんかおいしそうなものをプレゼントしてよ。
「いてっ、!なにすんだよ、パパ。わかってるよ、冗談だよ冗談、ったくパパはジョークの通じない日本人なんだから嫌になっちゃうよ!」
おさおさん、銀座のコース、パパが歩けたんだから、誰だって歩けますよ。
「いてっ、またかよ、パパ、勘弁してワン」
えーと、幻の卒業試験、これは、銀座を歩くより難しかったなあ。
だって、パパの指示が間違えちゃうと、銀座のように人がたくさんいるわけじゃないから道を聞けないんだよ。
まあ、そのことはトゥモローのブログでパパが書くと思うからぱもぴみに待っててゴン!
Posted by トリトン at 2011年05月13日 21:55
ドスコイノブさん、お久しぶりです。
先週の土曜日は、船堀で行われた
アイメイトの展覧会に出向きましたが、
息子の習い事の時間が迫っていたため、
たぶん数十分の差でお会いできず
残念でした。

銀座の卒業試験、
私もブルックスさんにお誘いいただいて、
ドスコイノブさんとトリくんの姿を
見守っておりました。
あのやんちゃだったトリくんが
アイメイトとして立派に歩行している姿を
見て、ブルックスさんと涙を流した
思い出があります。

トリくんのことは、
親戚のおばちゃんのような感覚で、
これからもこのブログを通して、
見守っていきたいと思っています。
トリくんパパ、
よろしくお願いいたしますね!





Posted by アンバー母 at 2011年05月14日 21:33
アンバー母さん、お久しぶりです。コメント、ありがとうございました!
そうでしたか、銀座にいらしてたのですね。知りませんでした。ブルックスさんと一緒に涙を流されたとのこと。
多分、トリトンのユーザーが私のようながさつで野獣そのものの変なおじさんだったことにショックを受けての涙でしょう(笑)
笑っている場合じゃありませんね。どうもすいません<m(__)m>
なんと、5月7日、アンバー母さん船堀にお越しになっていたとは!!これまた知りませんでした。お会いできず残念です。
今度、是非、ブルックスさんと一緒にお会いしたいものです。
いやいや、しかし、あれです、つまり、アンバー母さん、あまり私を驚かせないでくださいね。私、姿形は野獣ですが、心臓には毛が生えておりません
訓練日誌は残りあと2回です。これからもどうぞよろしくお願いいたします。
Posted by ドスコイノブ at 2011年05月14日 22:15
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